海外渡航者の健康管理医学博士 渡辺義一


海外に赴任した方々は、「バランスのとれた食事、適度の運動、充分な睡眠」などの日常生活習慣を守り、更に、「気候・風土、衛生状態、社会・文化」など現地の生活環境に対応した生活をおくり、これらの生活環境が起因となる健康上のトラブルを防ぐと同時に、もしも健康に異常が起きた場合は、現地での医療をスムーズに受けることが望ましいことは言うまでもありません。
 表1は出国前準備の7つの項目を開始するタイミングを示してあります。
 即ち、「予防接種、歯の治療、赴任地での健康上のリスクとなる可能性のある諸条件を知る努力」の3項目は海外赴任が決定次第、ただちに始める必要があります。

表1 出国前の準備項目「海外で健康にくらす」より
項目 実施内容 タイミング
1 出国前の予防接種 赴任決定後直ちに
2 歯の治療 赴任決定後直ちに
3 赴任地の健康リスクを知る 赴任決定後直ちに
4 健康診断 出国2~3カ月前
5 「病状経過診断書を入手」 出国2カ月前
6 現地医療を受ける準備 出国2カ月前
7 翻訳、参考書、携行品 出国2カ月前
マラリア流行地に赴任の場合は抗マラリア薬を入手)
後出の“マラリア流行地での発熱は先ずマラリアの検査を受ける”を参照
●表2 現地生活での注意
出国前の準備とは異なり、赴任地により注意事項が異なる場合が多いものです。
項 目 タイミング
高地に対する順応、高山病 出国前から準備
マラリアを含む伝染病対策 現地到着後できるだけ早く
住居の諸設備を整える 現地到着後できるだけ早く
教育と治安 現地到着後できるだけ早く
家庭内使用人への心得 現地到着後できるだけ早く
医療を受ける準備(ホームドクターを決める) 現地到着後できるだけ早く
高温・多湿への対応 適時
低温への対応(スノーストームなど) 適時
毒性を持つ生物に対する注意(クモ、サソリなど) 適時
ペット、家畜 ネズミ対策 現地到着後できるだけ早く
海水浴、淡水浴、水浴びの注意 適時
交通事故の注意 常時
子供の事故対策 常時
定期健康診断 1、2年ごと
赴任地からの出張、レジャー旅行 適時
帰国準備 -
「出国前の予防接種」
基本予防接種のワクチン
三種混合ワクチン(DTPまたはDTaP)、その後に受けるジフテリアと破傷風の二種混合ワクチン(DTまたはTd)あるいは破傷風トキソイド(TT)、ポリオ生ワクチン(OPV)あるいはポリオ不活化ワクチン(IPV)、B型肝炎ワクチン(HB)、b
 型インフルエンザ菌ワクチン(Hib)、インフルエンザ(ウイルス)ワクチン(Inf)、肺炎球菌(PCVまたはPPV)、麻疹(ME)、おたふくかぜ(MU)、水ぼうそう(Var)などがありますが、アンダーラインのあるものは、日本国内では通常接種できません。最近、WHOが世界各国でB型肝炎ワクチン(HB)を接種するよう勧告しているので、基本的予防接種に加えました。
補足的予防接種のワクチン
 日本国内で接種を受けられるものは、日本脳炎(JE)、A型肝炎(HA)、狂犬病(RV)、コレラ(CH)、および黄熱(Y)で、その他のものは赴任地で接種を受けることになります。
出国前予防接種のプランづくり

1.接種を受けたいワクチンを選び出す
2.選び出したワクチンの接種スケジュールを組み合わせ、効率のよい接種プランを作る

1.接種をうけるワクチンを選ぶことは、同じ家族内でも個人ごとに違います。その理由は、年齢、生活してきた国などで接種を受けたワクチンの種類や接種の回数が異なりますので、個々の予防接種歴を知ることで、はじめて必要とするワクチンの接種スケジュールを決めることができます。このためには信頼できる予防接種の証明書が必要で、これには、ワクチン名、接種した日付、接種者の署名、あるいは捺印のあるもの、例えば、「母子手帳」の予防接種証明書などです。"接種を受けた筈"などという曖昧なものを元に、ワクチン接種のプランを作ることはできません。米国の予防接種実施に関する勧告委員会(ACIP)では、「適正な予防接種証明書」が存在しない場合、または、はっきりしない場合は、先ず証明書を探す努力をした後、見つからない場合は、個々の年齢に合った必要なワクチンを選び出し、接種を受けるよう指示しています。従って、昭和43年以降に生まれた人が、多分"三種混合ワクチン"の接種をうけている筈と仮定して、接種するワクチンを選ぶことは誤りです。私の多くの母子手帳を見た経験から言えば、昭和43年前に生まれた人の中に"三種混合"の接種を受けた人もいれば、43年以後に生まれた人で、"三種混合"を受けていない人もいるのです。

2.選び出したいくつかのワクチンの接種スケジュールを組み合わせて、出国前の接種プランを作る手順は、個人で異なりますので、ここでの説明は省きます。
元来、接種を受けるワクチンを選び、接種プランを作ることは、予防接種を実施する医療機関の関係者が行う仕事ですが、私の経験では、1家族4人についてのプランを作り、出国後のワクチン接種についての説明には、少なくとも約30分を必要とします。以上2つの手順については「海外で健康にくらす」の中で、6つのステップに分けて説明してあります。少し難しいとの読者の声もありますので、「電話無料相談」を利用してください。

ワクチンの接種スケジュールについての問題点
大人で、自分の「母子手帳」を保存している人が少ない。
 この問題については前にも触れましたが、接種プランを作る際に、この問題点につき当たることが多いものです。この為、接種を受けねばならないワクチンの種類と回数が、持っている人に比べ多くなってしまいます。他の先進国の「予防接種証明書」には、表紙に"一生保存"の注意が印刷されているものもあります。日本には、このような注意が無いため、学校を卒業した後、両親が保存していないことが多いためだと思います。最近は海外に赴任する家族以外にも、「海外留学」を希望する子弟も増加し、海外の幼稚園以上の教育機関に入学する例も多いので、入校に際し、先に述べた「基本的予防接種のワクチン」を含むワクチン接種を受けねばなりません。この点、海外の日本人学校は入学の条件が、インターナショナル・スクールに比べ厳しくないので、かえって学生が現地到着後、危険にさらされる恐れがあります。現地に到着してから必要なワクチンを受ければ良い、と考えている人もいますが、日本で接種できるものを受けずに、現地で接種を始めると、免疫になるまでに時間がかかり、ワクチンの対象になる伝染病にかかるリスクが増えることにもなります。
 海外赴任前の予防接種について、メニューと言って、この国では、○○と○○と○○というように書いたものがありますが、個人ごとの予防接種歴をもとに、予防接種プランを作るという、大前提を無視したものといえます。

海外赴任者とその家族が、
出国前に日本で接種を受けられる
ワクチンの接種スケジュールについて述べてみます。

「基本的予防接種ワクチン」

三種混合ワクチン(DTP)
ジフテリア・トキソイド(D)、破傷風トキソイド(T)および百日咳(P)の3成分を含むワクチンであることはご存じと思います。
 このワクチンを少し詳しく書くと、"DTwP"と"DTaP"の2種類があります。
 前者は百日咳の菌体を含み、このワクチンを接種すると菌体成分に含まれる発熱物質のため発熱する傾向があり、接種前に解熱剤を処方する医師もあるようです。現在 はヨーロッパの一部の国で使用されているため、赴任者のお子さんの中に"三種混合ワクチン接種"後に発熱したという経験を訴えるのはこのためです。
 "DTaP"は百日咳の菌体成分の発熱物質を除いたものを使用しているので、発熱しないという利点があり、このワクチンを開発した日本をはじめ米国、ヨーロッパの一
部の国でも使用されています。

このワクチンの接種スケジュール:
 日本では、生後3カ月で始まり、最も短くても4週の間隔で2回(3週の間隔では他の国では問題となる場合もあります)、計3回の接種で百日咳に対する免疫が成立すると言われています。この接種スケジュールを別の方式で示すと、
 0(3カ月)/4週/4週 となり、初回接種を始めてから、約2カ月後、即ち生後5カ
月後に、百日咳の免疫が完了することになります。予防接種について厳重な指導をしている、米国の接種スケジュールでは、0(2カ月)/2カ月/2カ月 で3回目の接種
が生後6カ月で終了することになっています。百日咳に感染すると症状が重く、時に 死亡することがあるのは、生後1歳(12カ月)までの小児であることから、"DTP"の終了時期は非常に大切で、この病気が特に多い途上国では、生後6週から始める、0
(6週)/4週/4週 のように、生後14週で3回の接種が終了するようなスケジュール
を、WHOの「予防接種拡大計画(EPI)」では実施しています。
 海外赴任者に同伴する小児の母子手帳で、DTPの予防接種を初回と2回目の接種の後、約1年後に3回目を接種している場合を、時々発見しますが、これが適正でないことはお判りになったことと思います。3回接種に続いて、12カ月後に4回目、10年後にジフテリアと破傷風(DT)これを三期と呼び、これは 11歳から12歳の年齢にあたります。
以後10年ごとに、破傷風トキソイド(TT)を受けることになります。
 米国のスケジュールでは、3回接種後(生後6カ月?/9カ月(生後15カ月)/4歳か
ら6歳で5回目の接種以後、10年ごとに、"Td"を接種することになります。このワクチンは、"DTP"と同じ量の破傷風トキソイド(T)と"DTP" のジフテリア・トキソイドの含量を少くした(d)を含む"Td"を10年ごとに接種することになります。
 米国で、4歳から6歳までの間に5回目の"DTaP"の接種を受けるのは、4回目の
"DTaP"(生後15カ月)接種後、百日咳の免疫が約3年位で低下するという理由によります。7歳以上では百日咳に罹っても殆ど重症にならないため、破傷風とジフテリ
アの(Td)接種を続けることになっていますので、破傷風およびジフテリアの免疫も
保つことができます。
 日本では、大人になっても破傷風トキソイドの接種のみを行っているのでジフテリアの免疫を保つことができません。1993年頃、東ヨーロッパで起きたようなジフテリアの大流行が起きなければよいがと思っています。
ポリオ(小児まひ)のワクチン
1977年にWHOが天然痘撲滅宣言をし、次の目標にポリオを選び、現在までに多くの先進国で、殆ど患者が見られないまでに成功しています。しかし、途上国ではまだ時々発見されるようです。WHOは途上国に行く場合、ポリオの予防接種を3回受けてから出国するようアドバイスしています。
 ポリオのワクチンには、ポリオ生ワクチン(OPV)とポリオ不活化ワクチン(IPV)の2種類があります。
 OPVは、開発されてから現在までの長期間、ポリオ予防対策の主力として使用されています。人がポリオに自然感染したとき、病原ウイルスが腸内で増殖して便と共に排出され、流行を起こす原因になりますが、このワクチンを内服することにより、腸管が免疫をつくるので、腸管内に侵入してきたウイルスが増殖できず流行を予防します。しかも、生産費用もIPVより安いうえ、接種法(舌の上に1滴たらす)も簡単で、一度に多数の人に接種できるなどの利点があります。IPVは咽喉の粘膜にある病原ウ イルスに対しては免疫を与えますが、腸管内でのウイルスに対する免疫力は弱いと言われています。WHOは公衆衛生上の立場から、OPVをIPVより優れたワクチンとして位置づけています。
 IPVは現在米国やヨーロッパ(フランス、オランダ、ドイツなど)で常用され、多くの場合、DTPやB型肝炎(HB)などとの混合ワクチンとして注射されています。
 海外渡航者に対し、"ポリオのワクチンを1回接種して渡航する"というアドバイスがありますが、このアドバイスに対し、"現在までに少なくとも2回の生ワクチン(OPV)けていることを前提とする"をつけ加えたいと思います。OPVは先に述べたようにIPVと比べ多くの利点がありますが、生ワクチンの欠点として、接種したウイルスが体内で増殖している間に、突然病原力を回復し、小児麻痺を起こすことがあります。特にOPVの初回接種を受けた後、約100万人から300万人に1人位の発症率で起こり、大人に高い傾向があります。従って、OPVを以前2回接種したという確実な証明のない場合は、赴任地到着後にIPVを接種することが必要でしょう。
 OPVを2回しか接種しない国は、日本以外殆どありません。WHOの予防接種拡大計画(EPI)の報告によると、2回接種を受けた小児では80%に免疫抗体がで、3回接種を受けた場合は、殆ど100%に免疫抗体が作られるとのことです。
B型肝炎ワクチン(HB)
肝炎とは肝臓に炎症を起こし、その機能に障害を起こす病気の総称です。その原因には、アルコールや毒物など化学物質によるものと、ウイルスのような病原体の感染によるものとがあります。患者の発症数は世界的レベルでは後者が圧倒的に多く、その中でもウイルス感染がもっとも多いのが現状です。
 ウイルス性感染症の種類は、A,B,C,DおよびEの5種類に大別でき、AとEは飲食物から感染して症状が激しく、黄疸などの症状を示しますが、慢性肝炎になる例は殆どありません。E型肝炎は、若い人が重い症状を示し、妊婦が感染すると死亡することもあると言われます。東南アジアその他の途上国で感染する場合が少なくないようで、A型肝炎は途上国では感染者が先進国に比べ遙かに多いことは明らかです。A型肝炎に感染すると、完全に回復するのに約半年要するので、生産性に影響することを恐れ、先進国でも小児および大人も予防接種することが勧められています。
 B型肝炎、C型肝炎およびD型肝炎の3つは共に、血液と血液に関連する体液(リンパ液、精液)などから人に感染します。D型肝炎は、B型肝炎の慢性患者(キャリアー)がデルタ肝炎に感染すると、激しい症状を示す劇症肝炎になり死亡率が高くなります。
 D型肝炎は、B型肝炎ウイルスとデルタ肝炎ウイルスの二重感染によって起きるので、B型肝炎の予防接種をすることで、D型肝炎も予防できます。B型肝炎は性行為のほか、消毒不完全な注射器具、歯や目の小手術に用いる器具、はり治療、理髪店、美容院のカミソリ、ピアシング、小児間の皮膚の接触など(小児のキャリアの皮膚病、虫さされのひっかき傷)で、健康な小児の皮膚に傷があると、ウイルスが侵入して感染することが知られています。
 C型肝炎は、このような感染は殆ど無く、多くの場合、消毒不完全な医療器具によるものですが、現在予防ワクチンはありません。
 B型肝炎もC型肝炎も、感染すると黄疸を伴う肝炎症状を示さずに、慢性肝炎(キャリア)に移行する場合が多く、20年から30年後に肝硬変や、肝臓癌になる恐れもあります。 キャリアは病原ウイルスを他の健康者に感染するもとになります。幼児はB型肝炎に感染すると、黄疸などの症状を示さず、キャリアになる率が大人より高いと言われています。
海外赴任経験者の中に、"任地で、B型肝炎の患者を見たことがないので、予防接種の必要はない"と途上国に新しく赴任する人にアドバイスをしていることがあります。B型肝炎のキャリアは外見上、症状を示さないので、このようなアドバイスは適切ではありません。
先進国、途上国を問わず、B型肝炎の予防接種を受ける必要があり、インターナショナル・スクールや、米国の幼稚園以上の教育機関では、殆どの州でB型肝炎の予防接種が義務づけられており、入学許可の条件になっています。
 B型肝炎ワクチンの接種スケジュールには、標準法と迅速法があります。
 標準法:0(初回)/4?6週/5?6カ月、これで一応100%の免疫になりますがその後、6カ月から、12カ月で4回目の接種をすると、15年くらい免疫が持続すると言われています。
 迅速法:0(初回)/4?6週/4?6週/6カ月?12カ月ですが、初回接種の時期はいつでもよく、3回目の接種を受けると、一応100%に近い免疫を得られます。
 ヨーロッパの一部の国では、0(初回)/7日/14日というスケジュールで接種しているようです。WHOでは海外赴任者や長期旅行者は、迅速スケジュールの3回目を受けてから出国し、6?12カ月後に4回目の接種を受けることを勧めています。
 なお、B型肝炎ワクチン接種についての問題点をhttp://faminet/net/omc/に掲載してあります。
インフルエンザワクチン(Inf)
(faminetのホームページhttp://faminet/net/omcを参照してください。)
 0(生後6カ月以上)/4週?6週、以後毎年1回接種する。初回は年齢を問わない
麻疹ワクチン(ME)
麻疹は非常に感染し易い病気で、先進国では非常に有効なワクチン接種です。患者は減少していますが、途上国では年間、推定約90万人が死亡しています。麻疹に感染すると、中耳炎や肺炎のような合併症を起こすことが多いものです。
麻疹ワクチンの接種スケジュール:
 0(生後9カ月?12カ月)に1回/7歳前後に2回目
 途上国に渡航する場合は、0(生後6カ月?8カ月)に1回、12カ月になったら2回めの接種を受けます。
おたふくかぜワクチン(MU)
小児の唾液腺が腫れることで知られている非常に感染し易い感染症です。感染者の3分の1は症状を示さず免疫になっていると言われます。この病気は脳炎を起こすこともありますが、死亡することは殆どありません。稀に難聴となり回復しないこともあります。若い男性は、睾丸や副睾丸に炎症を起こし、これが不妊症の原因になることもあります。
おたふくかぜワクチンの接種スケジュール0(生後12カ月以後)に1回接種します。先進国の多くは、麻疹、風疹、おたふく風の3種混合(MMR)を生後 12カ月に1回、その後、国で決められた時期に2回目の接種を行っています。
 先進国のなかで、"おたふくかぜの予防接種を任意で接種する"としているのは日本だけでは無いかと思います。
風疹ワクチン(RU)
風疹は小児、大人とも感染しても症状は軽いものですが、妊婦が妊娠の前半期に感染すると、死産や、新生児に目、骨、心臓に異常のある、先天性風疹症候群を持った新生児が生まれ、その割合は80%におよぶとの報告もあります。
風疹ワクチンの接種スケジュール:
 0(生後12カ月以後)に1回接種します。
 妊娠する可能性のある年齢の女性は、以前に予防接種を受けていても、念のため免疫抗体価を検査するか、ワクチンを接種します。この場合、すでに抗体価を持っている人に、ワクチンの接種をしても副作用の心配はありません。ただし接種2カ月間は妊娠しないようにします。妊娠の疑いや、妊娠してからワクチンを接種することは、胎児に影響を与える可能性がありますので避けるべきです。
水ぼうそうワクチン(Var)
非常に感染し易く体に水泡が現れます。小児は一般に症状が軽いものですが、大人は感染すると症状が重く、ウイルスが神経の一部に残って時々症状を現す傾向があり、これを帯状ヘルペスと呼びます。通常、1つから3つくらいの水泡が胸部の皮膚に現れ、その部分が痛み、後に褐色の色素を残し、時に再発して肺炎や脳炎を起こす危険もあります。
水ぼうそうワクチン接種のスケジュール:
 0(12カ月以上)の1回
 0(13歳以上)/4週?8週の間隔で2回目を接種
 小児のなかには、このワクチンを1回接種後も、軽い水ぼうそうに感染することがあります。13歳以上で2回接種する方法は、米国のACIPで日本製のワクチンについて検討した結果、勧めている方法です。
 このワクチンは、海外では接種を受けられない国が多いので、免疫抗体のない人は出国前に予防接種を受けることをお勧めします。
肺炎球菌多糖類ワクチン(PPV)
肺炎球菌は、喉の粘膜に存在していた菌が、急に病気を起こしたり、肺炎その他の症状を示している患者から感染したりしておきる病気です。
 途上国では、5歳以下の小児が重症の肺炎で年間100万人くらい死亡しているといわれます。先進国では、主として高齢者が被害を受けています。一般に慢性の病気を持っている人が、肺炎球菌に感染して重症になる傾向があり、これはインフルエンザの流行している時に顕著です。
 肺炎球菌は、肺炎、中耳炎、副鼻腔炎などのほか、通常は病原体の存在しない血流の中に侵入して、敗血症や髄膜炎を起こすため、侵入性の病原菌とよばれることもあります。
 日本では、予防接種のできないb型インフルエンザ菌と共に、侵入型病原菌とよばれます。肺炎球菌は、近年、抗菌薬に抵抗性になってきたので治療が難しいこともあり、ワクチンによる予防が重要になってきました。
肺炎球菌多糖類ワクチンの接種スケジュール:
 0(2歳)/5年(7歳)、および、0(60歳)/5年(65歳)となっています。米国では、多糖類に蛋白を結合させたPCVを、0(2カ月)/2カ月/2カ月/6カ月となっています。
ワクチンの接種部位
ワクチンの接種部位については、日本では余り重視されていませんが、ワクチンの免疫効果に影響があると言われています。今まで述べた、基本的予防接種ワクチンの接種部位について、International Travel and Health (WHO)によれば、以下の通りに指定しています。
○BCG:皮内
○三種混合(DTwP、DTaP): 筋肉内
  破傷風トキソイド(TT): 筋肉内
○ポリオ生ワクチン(OPV): 内服
○B型肝炎(HB): 筋肉内
○インフルエンザ(Inf): 皮下または筋肉内
○麻疹(ME): 皮下または筋肉内
○おたふく風(MU): 皮下または筋肉内
○風疹(RU): 筋肉内
○水ぼうそう(Var): 筋肉内

 なお、筋肉内注射の部位は、肩の付け根の三角筋内に皮膚に対し90度の角度かまたは、胸筋内に斜めに注射をするべきで、尻の筋肉内に注射をすると、免疫効果が落ちるばかりでなく、局部にある神経を傷つける恐れがあります。

「補足的予防接種ワクチン」

日本脳炎ワクチン(JE)
日本脳炎の病原ウイルスは、1999年にニューヨーク付近で発見され、米国本土に流行が拡がり、今年も約9,000人の患者をだしている西ナイル熱の病原ウイルスと同じグループ(全く同じではない)のウイルスで起きます。イエカ類が、ウイルスを動物(主としてブタ)や、いろいろの野鳥を通して人に媒介します。ウイルスに感染しても大部分の人は症状を示しませんが、症状を出す場合は、頭痛、軽い脳炎を起こし、時に高熱をだして死亡することもあり、その死亡率は約50%です。回復した患者の中には、後に神経系の疾患、例えば、パーキンソン病を起こすこともあるようです。
日本脳炎ワクチンの接種スケジュール:
 a:0(3歳)/2?4週/12カ月、以後4年ごとに1回接種
 生後6カ月?3歳までは、3歳以上の接種量(1.0ml)の半量(0.5ml)
 b:0(1?2歳)/7日/23日、以後3年 
 ごとに1回接種
 接種量は1歳から2歳までは3歳以上の半量(0.5ml)
 aの接種法は、日本国内で日常行われているスケジュール
 bの接種法は、日本製のワクチンについて米国(ACIP)の接種法によるもので、狂犬病ワクチンの接種スケジュールに似ています。「ITH」は両者の接種スケジュールを採用しています。
狂犬病ワクチン(RV)
動物、特にイヌまたはネコや野生動物に咬まれたり、ひっかかれたら直ちに以下の処置をしてください。
(1)傷口の中に入っているものがあれば取り除き、手と傷口を水または石鹸で5分?10分間よく洗います
(2)傷口にヨードチンキまたは、70%のエタノールを流しこみます
(3)直ちに医師に受診します。
この3つの手順は、咬まれたり、ひつかかれた病の発病を少なくすることができると言われています。既に狂犬病の予防接種を受けていても実行すべきことです。狂犬病以外に、破傷風を起こす恐れがありますので、破傷風の予防接種を受けていても、ペニシリン系の薬(例 オーグメンティン)を服用することも大切です。小児は動物から受けた、ひっかき傷などを両親に知らせないことがあり、早期の処置が行えず、手遅れになる恐れもあるので、なるべく"イヌやネコ、その他の動物に近づかない"または"動物に咬まれたり、ひっかかれたりしたら、必ず両親に知らせる"ように注意を与えておくことが大切です。
 狂犬病は発病すると、100%死亡するウイルス性感染症です。通常、感染者から他の健康者にウイルスを感染させることは証明されていません。
 1994年WHOの狂犬病予防についてのエキスパート会議以後今日まで、狂犬病ワクチンの接種スケジュールは日本を除き、世界各国殆ど一致しています。
狂犬病ワクチンの接種スケジュール:
 0(初回)/7日/14?21日 の3回接種後、2年から3年ごとに1回接種します。
 これに対し日本では:
 0(初回)/4週/6?12カ月後で、完了するまでに、最も早くて7カ月を要します。その後1年ごとに1回接種することになっていますが、WHOはじめ、世界各国のものと大変異なるスケジュールで接種を受けて出国することになります。日本の接種法で受けた場合、国際型のスケジュールで受けた場合と同程度の免疫を得られるという確実なデータを私は知りません。
A型肝炎ワクチン(HA)
A型肝炎は、赤痢やコレラのように感染者の便から、病原ウイルスが排出され、汚染された手から周囲の健康者や、食卓、家具などを汚染し、それらに触れた人の手から、食卓を共にする人達の間で次々と患者が広がっていくこともあり、非常に感染し易い病気の一つです。またA型肝炎は魚貝類の中に入っていることが多く、これは水中にいる病原体を取り込んで蓄積する性質があるためです。特に水底や海底に棲息している魚貝類やカニなどは充分に熱を通してから食べることが大切です。5歳以下の小児がA型肝炎に罹っても、大人のような激しい症状が起きず、免疫になると言われています。大人になってA型肝炎に感染すると、突然の発熱、吐き気や右上腹の鈍痛などで体が弱り、2?3日後には黄疸を現し、40歳以上で約2%、60歳以上では4%くらい死亡すると言われています。回復までに1カ月近くかかり、完全に元気になるには6カ月くらいかかります。
A型肝炎ワクチン接種スケジュール:
 a:0(2歳)/6?24カ月、以後10年ごとに1回接種
 b;0(16歳以上)/2?4週/6カ月、以後10年ごとに1回接種
 a方式は、米国ACIPのスケジュールで、2歳以下を除く、総ての年齢層に免疫を与える目的のものです
 b方式は日本のスケジュールで、16歳以下
の小児の感染を予防することができないので、途上国に渡航する場合には不適当な接種法です。
コレラ ワクチン(CH)
現在、世界で流行しているコレラは、エルトール・コレラと呼ばれる種類のもので、以前インドを中心に流行し、多くの死者を出した真性コレラとは違います。エルトール・コレラで起きる脱水を防ぐために、家庭で作ることのできる経口輸液の材料(ORS)が、途上国でも入手できる現在では、死亡率が約30%であったエルトール・コレラの流行初期と比べ、現在では、2?5%まで低下しています。他の下痢症で死亡する小児もこの経口輸液によって、毎年数百万の命が救われていると推定されています。コレラは現在、サハラ砂漠より南の熱帯アフリカで時々大きな流行を起こしており、他の途上国でも小規模の流行が起きています。この病気の感染はA型肝炎と同様に飲食物に対するガードを高くすることで、容易に防ぐことができます。
 コレラの予防ワクチンは現在世界の先進国の一部で、予防力の優れたワクチンが開発され、実用化されていますが、日本国内で接種できるワクチンは、3カ月くらいしか免疫力が続きませんので、出国直前に受けないと殆ど免疫が期待できないでしょう。
黄熱ワクチン(Y)
感染症には世界的に広く分布しているものと、ある地域にだけ分布しているものとがあります。黄熱は、サハラ砂漠の南に位置する熱帯アフリカと、熱帯南アメリカだけに存在する感染症です。他の地域に患者がでるのは、熱帯南アメリカや熱帯アフリカで、黄熱に感染した人が帰国または入国した結果です。黄熱に感染した殆どの人は症状を現すことなく免疫になると言われますが、このことは、黄熱と似たウイルスで起きる日本脳炎や西ナイル熱とも共通した点です。
 症状が出た場合、急性で、39?40℃の発熱、全身の筋肉痛、頭痛、吐き気、嘔吐、熱が高いのに脈拍数が少ない、光が眩しく感じる、目まいなど、ウイルス性感染症の初期の症状を示します。発病から3?5日後に熱や他の症状がなくなり、そのまま病気が治る場合もありますが、患者の15%くらいは、48時間くらい後に、発熱、吐き気、嘔吐、右上腹部の痛み、黄疸、尿量の減少、蛋白尿、鼻や歯ぐきから出血、コーヒーよう、または鮮血の下痢、全身臓器の機能不全、ひきつけ、精神混濁、意識不明、血圧下降、酸欠症などが現われ、このような症状を示した患者の死亡率は80%と言われています。
黄熱ワクチン接種スケジュール:
 0(生後9カ月以上) 以後10年毎に1回接種
■黄熱は、いつ流行が起きるかは予測できないので、上述した地域に行く人は、長期赴任者も、旅行者も、予防効果が100%と言われている黄熱ワクチンの接種を受ける必要があるので、必ず最寄りの検疫所にご相談ください。
◆ 補足的予防接種ワクチンの接種部位
○コレラ: 皮下
○日本脳炎: 皮下
○狂犬病: 筋肉内
○A型肝炎: 筋肉内
○黄熱: 製造所の指示に従う

●WHO International Travel and Healthhttp://www.who.int/  感染症情報を含む健康上のリスクなどの情報が得られる
●外務省海外安全ホームページhttp://www.mofa.go.jp/pubanzen/ 治安情報および、医療情報などが得られる

マラリア流行地での「発熱」は先ずマラリアの検査を受ける

マラリアの流行地に入って7日以後の「発熱」には、以前から行われている検査法で、患者の血液をガラスのスライドに塗り、染色して検査する方法を実施すべきであり、“ペーパーストリップ”による“迅速診断”は現在のところ信頼性が疑われております。
 マラリア流行地で発熱した場合、検査を含む医療を、24時間以内に受けられないと判断したときは、「携行している緊急自己治療用の抗マラリア薬」を内服した後、医師を待つというのが良い方法です。
 以上は WHOの“International Travel and Health”2002年勧告の要旨です。以後「ITH」と引用します。
 マラリアには「三日熱、卵形、四日熱および熱帯熱マラリア」の4種類ありますが、そのうちの熱帯熱マラリアの病原体は、感染者の赤血球の一個ごとに複数認められ、赤血球を破壊して貧血の原因となり、また病原体を持つ赤血球が互いに接着して固まり、患者の主な臓器の毛細血管につまり、いろいろな熱性伝染病に似た症状を示します。しかし熱帯熱マラリアは病状の進行が早いため、診断と治療がおくれると患者が死亡するおそれがあります。先にのべた「ITH」の勧告も「熱帯熱マラリア」を念頭に置いたものといえます。
 「熱帯熱マラリア」は世界各地に存在していますが、アフリカ大陸のサハラ砂漠より南部の熱帯アフリカでは、患者の90%くらいは熱帯熱マラリアの患者であるといわれており、マラリア予防内服をせずに、この地域に入った先進国の人は1カ月間に2%あまりが、感染したという報告もあります。
 「ITH」のマラリア予防内服についての指針(www.who.int/)で、(MEF) または(C+P)とある国や地域には「熱帯熱マラリア」が存在することは確実であると思います。

熱帯熱マラリアは予防内服や緊急自己治療に使用する抗マラリア薬に抵抗性になり易い

以前はクロロキン(Chloroquine)が予防内服や治療に有効であったものが、最近では殆ど効果を示さず、メフロキン(Mefloquine)、ドキシサイクリン(Doxycycline)などを使用する必要があります。
 タイとカンボジャの国境、タイとミャンマーの国境地帯ではクロロキン抵抗性に加え、キニーネ(Quinine)にも抵抗性の熱帯熱マラリアが存在して、予防内服や緊急自己治療をより難しくしています。このような多剤耐性の熱帯熱マラリアは世界の他の地域にも今後現れてくる可能性は大きいと思われます。このような地域には、妊産婦および8歳以下の小児は特別な理由のない限り、出かけないほうがよいでしょう。表3「ITH」による予防内服薬と内服中にマラリアに感染した場合の緊急自己治療薬を示してあります。
 この表から、日本国内で医師の処方箋があれば入手できる薬は、Mefloquine、Doxycycline、Sulfadoxine- pyrimethamineの合剤の一種である“Fansidar”、QuinineとTetracyclineなどです。Mefloquineは流行地に入る1週間前(できれば、2~3週間前)から予防内服を始め、Doxycyclineは流行地に入る1日前の夕方から内服を始める必要があり、流行地に入るとき、携行している必要があります。
 SulfadoxineとPyrimethamineの合剤の一種である“Fansidar”については「ITH」には述べていないようですが、以前からこの種の合剤は、東アジア、東南アジアではあまり効果がないと報告されていたことが、思い出されます。
 Quinineは日本では粉末製剤であるため、日本出国前に個人的に調剤してもらう必要があります。1回の自己治療に、1日に8時間間隔で3回内服し、7日間続ける必要があります。“Fansidar”の1回内服に比べて面倒であるかも知れません。表で示すように、予防内服と緊急自己治療に使用できる Mefloquineと、予防内服薬としてMefloquineよりすぐれていると思われるDoxycyclineの2種類の抗マラリア薬を、赴任者は流行地に携行し、Doxycyclineによる予防内服から始めるのが良いと考えます。
 尚、Doxycyclineで予防内服中にマラリアに感染した場合にMefloquineで緊急自己治療する際は、1回目は体重1kgにつき15mgを内服し、2回目は6から24時間後に体重1kgにつき10mgを内服します。合計、体重1kgにつき25mgとなります。
「ITH」によればMefloquineの予防内服もDoxycyclineによる予防内服も4から6カ月間は連続で内服できるとのことです。
 Mefloquineの長期内服については判りませんが、Doxycyclineは長期間内服をすると腸内に存在する微生物のバランスがくずれて球菌やカビが増殖し、時には血液の混ざった粘液便が認められることもあります。もし便に異常が認められた場合は、内服を中止して医師に相談してください。
 予防内服を考える場合に、2種類の抗マラリア薬を適当な間隔で交互に内服すること(例えばDoxycyclineを2カ月、Mefloquineを2カ月)も、今後の研究課題のように思われます。このようにすれば、同じ抗マラリア薬を長期間内服して起きる悪影響を緩和できるかも知れないからです。
 『海外で健康にくらす』で紹介したAtovaquoneとProguanilの合剤(商品名“;Malarone”)について「ITH」は緊急自己治療に使用することは認めていますが、予防内服薬として使用中に、もしマラリアに感染した場合、使用できる緊急自己治療薬についてのデータが欠けているという理由で、予防薬として認めておらず、ヨーロッパ諸国でも28日間に限り予防内服を認めているようです。
 「ITH」は、抗マラリア薬を支給された赴任者は、マラリアを疑う症状、薬を使用する時期、使用法、副作用、薬の効果が現れない場合の対応策などを判り易く書いた説明書を、薬と同時に受け取る必要があると述べています。これは赴任者の健康管理者が留意すべき重要事項であると考えます。従ってここでは赴任者個人についての抗マラリア薬使用法の詳細は、上述の「説明書」にゆずります。

表3「ITH」による予防内服薬と内服中にマラリアに感染した場合の緊急自己治療薬
予防内服法 緊急自己治療薬
内服せず Chloroquine 三日熱流行地のみ
Sulfadoxine-pyrimethamine combination
(“Fansidar”)
Mefloquine, 15mg/kg
Quinine
Chloroquine alone or with proguanil
(CHL)    (C+P)
Sulfadoxine-pyrimethamine combination
(“Fansidar”)
Mefloquine, 15mg/kg
Quinine
Mefloquine
(MEF)
Sulfadoxine-pyrimethamine combination
(“Fansidar”)
Quinine
Quinine + doxycycline
or Quinine +tetracycline for 7 days
Doxycycline Mefloquine, 25mg/kg *
Quinine + tetracycline for 7 days

抗マラリア薬の予防内服と同様、大切なことは「ハマダラカに刺されない工夫」

これまでは「熱帯熱マラリア」に焦点を当てた抗マラリア薬による「予防内服」と「緊急自己治療」について述べましたが、マラリア予防のもう1つの柱は、マラリアを感染させる(媒介する)ハマダラカに刺されないように注意することです。『海外で健康にくらす』の「資料3」には、カに刺されない工夫として、住居の整備、住居周囲の清掃、夕方からの外出、昆虫忌避剤などが述べてありますので、参照してください。

マラリア

熱帯地の多くの国、亜熱帯の一部の国にマラリアは分布し世界人口の7分の1、およそ8億人が感染、年間150万人が死亡、と推定されている。
マラリアには、三日熱・四日熱・卵型・熱帯熱マラリアの4種類があるが、熱帯熱マラリアが最も危険性が高い。そのうえ、この熱帯熱マラリアには、近年、以前から使用されていた予防内服薬に抵抗性のあるものが急速に増加している。
現在、マラリアに対する個人的予防法としてWHOがすすめているのは、

①マラリアを媒介するハマダラカに刺されないようにする。
②治療剤を常に携行する。
③予防内服薬を服用しても完全には予防できないということを理解しておく。

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